セルビア南部の地方都市、クルシェバツから列車に乗って首都ベオグラードへやってきた。
バルカン諸国のこれまでの雰囲気と打って変わり、一気にヨーロッパらしい石造りの荘厳な建物が増えて驚いた。
ドナウ川とサバ川が交わる地にあるベオグラード。古来はローマ帝国の蛮族に対する防衛拠点だった。
その地理上、バルカン半島への玄関口とも言われており、オスマン帝国とハプスブルグ君主国の支配を交互に受けるなど、常にヨーロッパとアジアの境にあった。
今回は、そんなベオグラードで訪れた場所とそこにまつわる歴史をご紹介する。

ベオグラードってどんなところ?
ベオグラードの概要

ベオグラードはセルビアの首都。
セルビアの中部に位置しており、人口は137.4万人。
サバ川とドナウ川という2つの大きな河川の交わるところに位置しており、古来から防衛拠点や交易路の中継地点として重要な役割を担っていた。それゆえに幾度となく争いに巻き込まれることになるのだが・・・。
ここから、ベオグラードの歴史を簡単にご紹介する。
ベオグラードの名の由来
「ベオグラード」という名前はセルビア語で「白い街」という意味を持っている。
7世紀にスラブ人が移住してきたときに、そこにあった要塞の白い壁を見てそう名づけたという。今ではこの要塞はベオグラードいちの観光スポットになっている。
ベオグラードの歴史
ベオグラードはヨーロッパの中でも最古の都市の一つ。なんと、紀元前6,000年ごろから人が居住を始めたと言われている。その後ギリシャ人たちが移り住むようになり、1世紀ごろから街は徐々にローマ化されていった。
その後、蛮族に対する防衛拠点になったベオグラードは、フン族や東ゴート族、アヴァール人などから度々襲撃を受けた。その後も東ローマ帝国、ハンガリー王国、第一次ブルガリア帝国の争奪の場になるなど、現代まで140回も戦いの場になったという!
第一次・第二次世界大戦ではベオグラードは常に戦いの前線の街だった。
特に第二次世界大戦では街はナチスドイツによる空襲を受け、一時ナチスの傀儡政権が置かれていた。実際に今でも、昔ナチスの兵が潜んでいたという場所が残っている。
2度の世界大戦の後は、2006年にセルビアが独立するまで、ユーゴスラビアやセルビア・モンテネグロの首都となってきた。
コソボ紛争ではNATO軍の空襲を受け、この時も街は大きな被害を受ける。この時空襲を受けて破壊された建物が今でも一部残されている。
ベオグラードで見るべき場所
ベオグラードは、古代から現代までの歴史的な建物や、美しい教会などであふれている。
街並みも美しいので、観光スポットを素早く巡るというよりも、ゆったり時間に余裕を持って観光して欲しい。時間に余裕があれば2日か3日は滞在してほしいところだ。
ここでは、ベオグラードの見どころと、それにまつわる話をご紹介する。
私はベオグラードフリーウォーキングツアーに参加し、色々な話を聞いた。とても満足度の高いツアーだった。とてもオススメだ(あとで詳細をご紹介する)。
ベオグラード要塞

セワ川とドナウ川が交わるところにあるベオグラード要塞。
現在は「カクレメダン公園」という公園の内部に位置している。
地理上、軍事的にとても重要な場所のため、2世紀にローマによって建設されてから18世紀までの間、何度も破壊されては再建されてきた。

現在、この要塞は人々が集まる憩いの場になっている。
私が訪れた6月には、多くの土産物屋やアイスクリームなどを売る屋台が出ており、多くの人が散歩したり景色を眺めながらまったりしていた。
アクセスもとても良いので(メインストリートの端に位置している)、ベオグラードに来たら必ず訪れて欲しい。
開館日 毎日
開館時間 24時間
入場料 無料
聖サワ大聖堂

まだ建築途中のこの教会。
世界でも最大級の大聖堂なのだが、この大きなドーム、何かに似ていると思わないだろうか。
そう、イスタンブールのアヤソフィア。
フリーウォーキングツアーの情報によれば、この教会はアヤソフィアを模してつくられているそうだ。

この場所はセルビア正教会の創設者である聖サワを記念して建てられている教会。
1930年代にはすでに教会は構想されていたが、戦争やユーゴスラビア時代を経てなかなか建設が始まらず、なんと駐車場だった時代もあったんだとか。最近になってやっと工事がスタートした。

聖堂の地下には巨大な空間があり、フレスコ画がびっしりと描かれている。
外観からは想像もつかないこの黄金の空間に圧倒された。

入場料は無料。開館時間は情報がなかった。
聖マルコ聖堂

聖サワ聖堂よりは地味だが、独特の建築が美しい聖マルコ聖堂。
こちらもセルビア正教会の聖堂だ。
1931年から1940年の間に、古い教会のあったところに建てられており、18世紀から19世紀にかけての貴重なイコンが数多く収められている。
この聖堂のすぐ近くには国会議事堂など政府関連の建築物が多く建てられている。
内部では写真撮影はNGなので注意して欲しい。
また、結婚式の関係で内部に入ることができないこともある。
入場料は無料。
聖堂の横には、このような銅像が建てられている。
これは昔、とある司祭が毎朝トラムに乗って聖堂に通勤(?)する姿を記憶にとどめておくために作られたとのことだ。
現在、ベオグラードはなんだかキラキラしていて、豊かに見えるが、昔はもっと貧しかった・・・その時代の記憶を留めておくためのものなのだろう。
NATOの爆撃を受けたテレビ放送局

聖マルコ聖堂の近くにある建物。
20年前のコソボ紛争時、ベオグラードはNATOによる空爆を受けた。
この建物は、戦争の記憶として今でも当時のまま残されている。
20年、というのはとても短い。
多くのセルビア、コソボの人々が、コソボ紛争のことを生々しく覚えており、私もセルビア人の知人から当時の話を聞いた。
ということは、今でもこの建物を見て生々しく当時を思い出す人もいる、ということ。
このことを忘れず、静かに見学しよう。

ベオグラードには、他にも戦争の記憶を留めている建物が多く残っている。
街中を歩いていると、何気ないところでその痕跡を発見できるかもしれない。

テスラ博物館

セルビア人の有名人といえばニコラ・テスラ。19世紀中期から20世紀中期にかけて活躍した発明家で、無線操縦や蛍光灯、テスラコイルなどの発明で知られている。
ベオグラードの高級な地域にニコラ・テスラ博物館が建てられており、毎時間開催されている英語ツアーで見学することができる。
- 入場料 500セルビアディナール(約500円)
- 開館日 火曜日〜日曜日
- 開館時間 9:45〜20:00
おわりに
2つの川が交わっているという地理上、古代から争いの地になってきたベオグラード。
街を歩いているだけで、その歴史を感じることができる。
また、ベオグラードへ行く前にクルシェバツという地方都市を訪れた私としては、地方とベオグラードとの違いを見るのも興味深かった。
見るべきものはとても多いし、街並みは美しいし、近くまで来たらぜひ訪れてみてほしい場所だ。
フリーウォーキングツアーについて
私が大きな都市で観光スポットをめぐる際に活用しているのがフリーウォーキングツアー。
ローカルガイドの解説とともに街を歩き、2〜3時間かけてその場所の歴史を知ることができるツアーだ。代金は無料で、最後に自分の満足した分だけチップを払うという形式。予約も必要ないので、その日に思いついてその日に参加することができる。
ベオグラードには、フリーウォーキングツアーを開催しているツアー会社が2つあるよう。
両者ともツアー内容は似通っており、20世紀の歴史を巡るツアーとダウンタウンを巡るツアーの2つがある。
歴史を深く知ることができるだけでなく、現地の若者の思いなども肌で感じることができる。他の旅行者と話すのも楽しい(私が参加した時はイスラエル人の親子やオーストラリア在住の中国人など様々な人が参加しており、彼らと話すのがとても楽しかった)。
毎日開催されているので、気が向いたら参加してみて欲しい。
